Vol.7ものづくり支える熟練の化学分析
分析、それは品質向上の拠り所
「最後の砦」で分析に勤しむ
7人のオールラウンダー

※撮影時に限りマスクをはずして撮影しています。
今回は、生産・技術部門分析部の今井さん、佐藤さん、林さんにお話を伺いました。
東京インキの製品の多くは、人々の手に届いたとき、それが「東京インキ製」だと気付いてもらえることはほぼありません。社業のルーツである印刷インキも然り。その技術を応用して生まれた化成品もあくまで「原料」や「材料」であることがほとんどだからです。しかし、ありとあらゆる分野の最終製品にひっそりと使われている「東京インキ製」は、誰もが一度は手にしたことがある、いや手にしない日はないぐらい実際には身近な存在です。
それだけに品質不良や不具合があった場合には、品質改良の拠り所となる精密な分析が必要となります。そのような局面で、担当部署で究明に行き詰まったような難題が持ち込まれるのが分析部。言うなれば警察にとっての科捜研、病院にとっての病理部、そんな部署と言えるでしょう。
佐藤「担当部署を通じてお客様からの指摘やご相談を受けた場合、ある程度の検証は品管(品質管理)でもできるのですがそこで解決に至らないこともあって、より詳細な分析を必要とするケースを私たち分析部が担当しています。よくあるのは色ムラや異物ですが、東京インキの事業全般が対象なので本当にさまざま事案に対応します」
今井「材料メーカーとしての説明責任をしっかり果たすことができなければ信用問題に繋がりかねません。そこで求められるのが不具合の正体や原因を示すデータです。そのための分析を担当するのが私たちなので、依頼元からは『最後の砦』と呼ばれることもあります」
職員は部長を含めて7人。会社の規模からすると意外と小さな部署です。東京インキが三本の柱としている「インキ」「化成品」「加工品」の各事業領域の製品から開発案件までをカバーし、さらに依頼があれば一般分析(有償)にも対応しています。
佐藤「大企業の分析部だと『この装置を使うからこの人が担当』となりがちなのですが、私たちはむしろその逆で、全員がオールラウンダーを目指す方針をとっています。誰もがすべての分析装置を扱えるように鍛えられているので、少人数でも広範な領域をカバーできているのだと思います」
今井「とは言え、装置を使いこなすにはまず『材料』の扱い方を知らなければいけません。『重みのある分析』ができるかどうかは『どういうレシピでおいしいものにするか』によりますから。そのためにはポリマー(高分子系の材料)についてじっくり勉強してもらいたい。人材を採用するときも、こういう方針についてこれるかどうかをポイントにしています」
入社14年目の林さんはそんな分析部の主戦力。「駆け出しの頃は『師匠と弟子』のような関係で分析のノウハウを叩き込まれました」と話す林さん。日頃どんなふうに仕事をしているのか聞いてみました。
林「ひとつの案件は基本的に最初から最後まで一人の職員が担当します。例えば『成形品に色の濃い部分がある』というようなケースですが、ボトルやフィルムは単層ではなく何層にもなっている構造なので、異物が当社の製品が使われている層にあるのかどうか見極める必要があります。
(1)顕微鏡で表面を観察
(2)専用の裁断機で切り出した断面を観察
(3)どの層にあるのか特定
(4)その異物が何かを赤外分光光度計(通称IR)で特定
見て→バラして→分析という流れで異物の正体を究明していき、それが何かがわかったら原因を推定して開発や製造の現場にフィードバックします」
今井「林さんの断面作成は熟練の域です。断面の切り出しは、経験が未熟だとミスも起きやすく時間のかかる作業です。まあ分析部では細かい作業がやたらと多いので手先の器用さは必須です」
林「だからと言ってブツさえあればなんでも分析できるわけではなくて、手がかりとなる情報に足りない部分があれば依頼元の部署にヒアリングして、品質不良が判明した状況や製造現場の状況を把握することも大切です」
関係部署と的確なコミュニケーションがとれるようになるのも日々の積み重ねあってのこと。「時間はかかりますが、こうして精鋭を育てることが品質向上にもつながるんです」と今井さん。
今井「顧客ニーズが変化し、製品もどんどん進化していきますから、分析部が果たす役割も時代とともに多様化しています。同時に分析装置も日々進化しますから、日頃からの情報収集に加え、装置メーカーが主催するセミナーに参加したり見本市を見学したりして常に自己研鑽し続けていかなければいけません。そこにおもしろさを感じられる人が向いている職場でしょうね」
今、分析部では「蓄積してきた知見やスキルを製品開発にもっと活用していこう」と開発部との課題共有を積極的に進めています。人々の手に「東京インキ製」がまたひとつ届く未来を思いながら、百戦錬磨の部員たちは今日も分析業務に勤しんでいます。

専用の裁断機で試料から切り出した断面

赤外分光光度計の前で説明している佐藤さん

今井「関連部署と調整を図りながら分析装置の導入計画を立てるのも私たちの仕事です」

林「幕張で開催される見本市(JASIS)は毎年行っています。見所は各メーカーの新技術説明会」