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お米の非食用部分から搾り取った油が原材料
「地産地消」で輸送マイレージ低減も

今回は、グラビアインキ営業部のIさん(写真中央)、営業統括企画部のKさん(写真左)、インキ技術第2部のOさん(写真右)にお話を伺いました。 *所属は取材当時のものです。
 

年間で推計50億個以上が販売されているコンビニおにぎり。今そのパッケージ印刷に静かな変化が起きています。2050年カーボンニュートラルの実現を目指すアクションとしてライスインキの採用が広がっているのです。バイオマスインキのひとつであるライスインキは、従来は捨てられていた米ぬかから搾油したこめ油を原材料とする印刷インキ。
東京インキでは単に植物由来というだけでなく、「輸入原材料に頼らない」ことを重視したライスインキ 「PULPTECC(パルプテック)」「LAMITECC(ラミテック)」をラインナップしています。「環境対応を模索する企業はもちろん、自治体をはじめお米の産地からも良い反応。お米が主食の国ならではの『循環』に注目していただいています」とIさん。そんなライスインキ開発の経緯、また企業間の垣根を超えて取り組む普及活動について語っていただきました。

Iさん

今、インキ市場全体がバイオマスにシフトしている状況にあるのですが、その中でもライスインキに関しては当社がトップシェアを持っています。もともと主な用途としては米袋のパッケージを想定して開発したのですが、2020年前後からお問い合わせが増え始め、現在は食品に限らずフィルム印刷全般に利用してもらっています。

バイオマスインキというと大豆インキが思い浮かぶのですが、お米由来のライスインキもあるのですね。

Oさん

大豆インキはオフセット印刷に向いていて、出版物をはじめとする紙の印刷に多く使われています。一方ライスインキは、フィルムなど包装材の印刷に使われるグラビアインキです。グラビア印刷には大きく表刷りと裏刷りの二つの方式があって、当社では表刷り用の「PULPTECC」と裏刷り用(ラミネート用)の「LAMITECC」を扱っています。どちらも従来のグラビアインキと同等、もしくはそれ以上のスペックを実現しています。

お米の袋はどちらになるのでしょう?

Oさん

今回写真にある米袋は表刷りです。コンビニおにぎりの包装も表刷りで当社のPULPTECC が採用されている代表例です。

そうなんですね!おにぎりの包装や米袋の印刷にライスインキが使われているとわかると、「お米がお米に包まれている」ようなイメージがなんとなく湧いてきます。

Iさん

「お米からつくったインキで米袋を印刷」という明快な循環なので消費者が直感的に理解しやすい。そういうことはあると思います。ですが当社としてこだわったのは、単にリサイクルというだけでなく「地産地消」。実は近年、バイオマスインキが主流になっていく中で、輸送マイレージという観点から評価した時に「輸入バイオマスへの依存度を減らしたい」というニーズが出てきています。じゃあ「地産地消」を実現できるバイオマス原料は?となると、日本ではやはり「お米」です。

私たちの主食ですからね。

Oさん

こめ油製造時に生じる非食用部分を使うことで廃棄するところがないことに加えて、非食用部分に付加価値を高めて有効活用できたことに可能性を見出しました。食べられる部分は食品に、食べられない部分はパッケージに使うことで、新たなサイクルを生み出すことにもつながります。

開発で苦労した点はありますか?

Oさん

新しいインキを採用していただく場合、それまで使っていたインキから少しずつ切り替えるということは基本的になくて、「完全に切り替える」という判断をしていただくことになります。そのためライスインキには、従来インキを上回るか少なくとも同等のクオリティが求められます。PULPTECC で言えばフィルム用表刷りインキとしての皮膜物性に加えて米袋に必要な設計も必要でした。
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[フィルム用表刷りインキの物性]
・耐摩擦性
・耐熱性
・耐スクラッチ性
・耐油性
・耐モミ性
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[米袋用の物性]
・PE チューブへの密着性
・両面印刷適性
・ノンスリップ性
・米粒を充填した後の耐性
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同様にLAMITECC も自社の既存の裏刷りインキに比べても遜色のない品質を有しています。

Iさん

PULPTECC にはライス光沢ニスの設定もありますので、LAMITECC に匹敵するような光沢を表刷りで表現することもできます。表刷り用・裏刷り用ともにフルカラー(黄・紅・藍・墨・白)を揃えているのも当社のライスインキの強みです。

そうした開発のおかげで、お米やおにぎりといった身近な商品でエコを実現できているのですね。
ところで「2020年前後からお問い合わせが増えた」ということですが、インキのようなBtoB商材のプロモーションはどんなふうに行われているのですか。「こんな新しいインキがある」という情報をユーザー企業はどうやって知るのでしょうか?

Iさん

ライスインキの場合は、当社もメンバーになっているライスインキ・コンソーシアムという推進団体があって、同じ志のもとに集まったインキメーカーや印刷会社が「環境にやさしいライスインキを世の中に広めていこう」と一致団結して普及活動を行っています。

Kさん

興味を持ってもらえそうな企業や案件があれば、コンソーシアムに参加している印刷会社さんと一緒に紹介に伺ったりもします。ライスインキ・コンソーシアムは「ライスインキマーク」の発行元にもなっているのですが、慈善団体として活動しているので、会員企業を通じてライスインキをご利用いただくと無料でこのマークを印刷することができます。そういったお話もさせてもらっています。

企業の環境スタンスを可視化してくれるエコラベルは、消費者の環境意識の高まりとともに今や不可欠なツールになっていますね。

Iさん

当初はおにぎりのパッケージ、おせんべいの袋、そういったお米関連の商品から採用事例が増えていったのですが、今では野菜の袋、雑貨…例えば緩衝材なんかにも「ライスインキマークをつけたい」というニーズがあって非常に多岐にわたっています。市場に徐々に浸透しているのかなと実感しています。

ライスインキマーク、買い物するときにこれからはちょっと気をつけてみたいと思います。

Iさん

エコラベルとしてすでにメジャーなバイオマスマークに対して、ライスインキマークには「なんか新しいな」という新規性がありますし、やはり「お米」って日本に根付いている文化じゃないですか。日本人に響くメッセージ性があるのではないかと思っています。

ライスインキは「環境にやさしいインキを作りたい、広めたい」という思いが結実した製品なのですね。東京インキが掲げるパーパス(存在意義)──『「伝える」「彩る」「守る」ことで、豊かな未来を実現する』この「守る」に真摯に向き合っていることで、「伝える」「彩る」というグラビアインキ本来の役割を担うシーンがこれからまだまだ増えるのではと期待しています。

Oさん

どんどん用途が広がっているので、ニーズそれぞれに対応した物性を持たせるという課題を常に抱えていますが、今後はより汎用性の高い設計を実現して商品体系を整理していく必要もあります。「環境へのやさしさ」というテーマを常にその中心に据えて取り組んでいきたいです。

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