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本音をもらしてもらえる信頼関係が強み
印刷現場で頻発した紙ムケの抑制と作業負荷を軽減

今回は、インキ技術第1部のMさん(写真左)、インキ営業第1部のKさん(写真中央)、 羽生工場製造部のOさん(写真右)にお話を伺いました。
 

紙とインキ。印刷物の素材は基本的にはこのふたつ。しかし紙にもインキにも多種多様な種類があり、そこには想像もつかないような奥の深い世界が広がっています。今回ご紹介する『ガイア® RF-C』は、コート紙にもザラ紙にも使える兼用インキ。開発を担当したMさん曰く「かっこよく言うとハイブリッドなインキです」。なんとこのインキ、コロナ不況の真っ只中に孤高の右肩上がりで販売を伸ばし、東京インキのオフセットインキの売上を牽引した稼ぎ頭。営業・技術・製造が一体となって取り組んだ開発の日々を振り返っていただきました。

Kさん

皆さんがわら半紙と呼ぶような紙のことを私たちは「ザラ紙(ざらがみ、ざらし)」と言っています。最近はスーパーのチラシなどにもザラ紙が使われることが増えています。気づかれたことはあるでしょうか?

スーパーのチラシにはツヤのあるツルツルした紙の印象がありますが…

Mさん

それはコート紙です。強度を出すためにコートしてあるのでコート紙。そのコート紙に比べて紙の表面の強度が弱く、低級紙に分類されているのがザラ紙です。

Kさん

2010年代半ばぐらいからそういった低級紙を使った印刷物がじわじわ増加し、2020年にはそれまで印刷用紙の主流だったコート紙を流通量で上回ったというデータもあります。私の家では新聞をとっているのですが、「折込チラシにザラ紙が増えたなぁ」と感じ始めた頃、印刷会社さんから「なんとかならない?」と紙ムケについてご相談いただくことが増えました。

「紙ムケ」というのは?

Mさん

インキの粘着性に負けて印刷時に紙の表面が剥がれてしまう印刷トラブルです。

Oさん

あとインキの着肉が悪くなる「ガサつき」なんかもザラ紙は出やすいです。

それがガイア® RF-Cの開発のきっかけなんですね?

Mさん

もうひとつ、低級紙の増加に伴って印刷現場の負担が大きくなっているという声がありました。これまではコート紙にはコート紙用のインキ、低級紙には低級紙用のインキと使い分けていたのですが、それだと用紙が変わるたびにインキを切り替えなければいけないのですが、インキの切り替えって人が手作業でやるものなんです。

Kさん

大手印刷会社さんには一台の印刷機に対してインキの供給ラインが2系統あったりもしますが、ほとんどの印刷会社さんは1系統しかありません。4色(墨・黄・紅・藍)ありますから大変な作業ですよね。万単位の印刷部数だとひたすら入れ続けることになります。

Mさん

ですからコート紙・ザラ紙どちらにも使える兼用インキならそういう作業負荷を軽減できるのではないかと。「紙ムケ」「ガサつき」といった印刷トラブルの抑制、さらに印刷現場の生産性や安全性の面でもメリットのあるインキができたらというのがガイア® RF-Cの開発に至った背景です。

2017年にガイア® RF-Cが発売されてから兼用インキを取り扱う会社はほかにも出てきたそうですが、東京インキがいち早く開発に着手して市場導入できたのはどうしてでしょう?

Mさん

そこはやはり営業がお客様のニーズを的確に拾い上げてきて、技術や製造がロス無く動けたことが大きいと思います。私たちが「印刷会社さんはこんなことで困っているんじゃないか」といくら想像をめぐらしても限界があります。印刷会社さんの本音を私たちの間で共有できていたので、そこにフォーカスしてニーズに合致する品質をスピード感を持って作り上げていくことができました。

営業は対外的にフロントに立つだけでなく、社内コミュニケーションにおいてもキーパーソンになってくるのですね。

Kさん

ガイア® RF-Cの開発では、お客様側の環境、例えばどういう印刷設備を使っているかといったことまでわかったら技術とすぐに連携していました。私自身は自分の手で開発ができるわけじゃないですから、部署連携が円滑に進むための役割を担って、知り得た情報を開発に落とし込んでもらうよう努めました。

Oさん

シーズよりもニーズ。そこに対してリソースを投入して、うまくいったら生産に落としていくというのが東京インキのスタイルなんですよね。

Mさん

それがうちのやり方ですよね。お客様とのつながり方というか。

Kさん

営業の仕事というのは、本音をもらしてもらえるような人間関係をいかに構築できるかだと思っています。お客様って何か問題があってもなかなか口に出して言ってはくれないものです。仲が良いわけでもない相手に悩み事なんて言わないじゃないですか。だからお客さんのところに通って、仲良くなって、密なやりとりができる関係でありたいと常に思っています。

ところでガイア® RF-Cの発売から8年が経過し、この間にコロナ禍もあったわけですが影響はありませんでしたか?

Mさん

インキ業界全体としてはコロナ禍で出荷量が落ち込んだのですが、当社に関して言えば横ばいに近い形で推移していて、緩やかではありますが2022年以降は回復の兆しも見えています。その要因のひとつにガイア® RF-Cがあります。ガイア® RF-Cの販売量は、2017年の発売年には当社のオフセットインキ全体のわずか0.1%に過ぎませんでしたが、コロナ禍が始まった2020年に急伸し、現在は37%(2024年度)を占めています。印刷需要が減り続けている中、インキメーカーとして将来を見据えた事業にシフトしていかなければいけないというパラダイムシフトのきっかけになったとも思っています。

むしろコロナ禍がガイア® RF-Cの追い風になった?

Kさん

コロナで社会の流れが変わってきて、どの業界でもそうでしたが、ビジネスモデルを変えていかなければあの時代を乗り切ることはできませんでした。経営が厳しいのはどこも一緒ですから、差別化できる製品に特化していっても、お客様にも納得してもらいやすい空気がありました。

Mさん

仕入れ先の化学メーカーさんも製品や事業の統廃合をしていたので、材料が仕入れられなくて作れない製品が出てくる状況もありましたね。でもその流れの中で私たち自身も品種統合というか、ラインナップの集約を効率的に進めることができた面があります。

その集約されたラインナップの中で、売上の牽引役になっているのがガイア® RF-Cということでしょうか?

Kさん

集約を進める中でオフセットのヒートセットインキ(*1)に特化する方向に舵を切り、ガイア® RF-Cにリソースを集中していく判断をしたんです。

Oさん

オフセットインキってボリュームがないと採算が合わない商材で、受注が突然激減した2019年から2020年にかけては事業として本当に辛い時期でした。当社はもともと小ロット対応を売りにしてきたのですが、メイン製品ベースでカスタマイズして作る派生品だったり、細かい対応が多い特練りインキ(*2)はこの時期にだいぶ絞り込みました。

Kさん

と言いつつ実はガイア® RF-Cにも派生品はあるんですけどね。ただ以前のような小ロット生産からは脱却していく方向で、生産量を確保できる前提であれば対応しています。

それでも派生品の需要があるということは、それだけ人気があるインキということですよね。

Mさん

先ほど「シーズよりもニーズ」という話が出ましたが、私たちインキメーカーの仕事って印刷会社さんが顧客から印刷物を認めてもらって初めて評価されるの で、そういう意味でもニーズに適うインキとして使ってもらえている感触はあります。「色彩を軸に、市場が求める価値を、お客様と共に創造、実現し続ける企業。」というのが東京インキのミッション(目指すべき企業像)なのですが、ガイア® RF-Cはこのミッションを体現している製品と言えるかもしれません。これからもニーズにしっかり向き合って、印刷会社さんが紙面品質を誇れるインキを提供していきたいと思っています。

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