Vol.10流行の中に未来を探る「営業」という仕事

時代のニーズを映し出す化成品事業、その最前線とは

「流行をとらえる力」を原動力に、
次の世紀を紡ぎ出せ

今回は、営業部門化成品営業第1部の橘さん(写真中央の左)、山本さん(写真左)、藍さん(写真右)、吉澤さん(写真中央の右)にお話を伺いました。

東京インキは2023年12月に「100年企業」の仲間入りをし、次の世紀へと歩み出します。100年企業とは文字通り、100年を超える歴史を持つ企業のこと。日本には37,085社(2022年 日経BPコンサルティング調べ)の100年企業が存在しているそうですが、こうした長寿企業に共通する要素のひとつに「流行をとらえる力」がしばしば挙げられます。
と言っても、東京インキは「最終製品のための製品」を製造する中間材メーカー。「流行とどんな関係が?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし一口にメーカーと言っても、流行を生み出すメーカーもあれば、それを支えるメーカーもあります。東京インキは後者です。東京インキもまた、「流行をとらえる力」によって幾多の荒波を乗り越えてきた企業なのです。そしてその最前線にいるのが営業職です。今回は、化成品とはどんな製品で、その営業とはどんな仕事なのか伺っていきます。

「東京インキは、国産初のポリエチレン用マスターバッチを1955年に商品化したパイオニアで、マスターバッチ(*1)とコンパウンド(*2)に代表されるプラスチック向け着色剤を主力商材とする化成品事業を展開しています。また現在では着色に限らず、何かしらの機能をプラスチックに付与する添加剤マスターバッチも多岐にわたって取り扱っています。一般の方がこうした製品を目にする機会はほとんど無いと思いますが、当社の売上の50%は化成品で売り上げています」

博文館印刷所練肉部を前身とする印刷インキメーカーとして1923年(大正12年)に設立された東京インキは、インキ製造によって培った分散技術(*3)を活かし、戦後まもなくから化成品の製造販売に取り組むようになりました。高度経済成長期に入ると、加工性が良く、安価で、ものを大量に生産できるプラスチックが大量生産・大量消費を後押しし、その着色剤として不可欠なマスターバッチやコンパウンドは、その後も時代時代のニーズを反映して進化を遂げていきました。

「用途は、食品・衣料品・日用品の包装用フィルム、電化製品、OA関連等のハウジング、農業資材、自動車の内外装、半導体実装基板、医療用品など。ひっそりとですが、身の回りの実にさまざまなものに使用されています」

しかし近年、環境意識やナチュラル志向が高まる中で、プラスチックの人気には陰りが見えているようにも思えます。

「確かにそうです。ですがそれはそれでリアルな市場動向として受け止めることで、次にどう動くか考えるのが私たちの仕事です。例えば当社では約20年前から生分解性樹脂用マスターバッチを手がけていますが、先駆的だっただけに最初は営業先でもほとんで手応えがありませんでした。しかしこれが今では発売当時の何十倍もの売り上げになっています」

マーケター的なセンスや情報収集能力、言い換えれば「流行をとらえる力」が求められるのが営業の仕事。そんなふうに捉えればよいでしょうか?

「市場の要求にマッチした形でプラスチック加工メーカーに対して何が提案できるか。それを考えるのが営業の役目。そのために市場動向と顧客企業のニーズを調査し、それを開発部門に伝えるまでが営業の仕事です」

生産・技術部門がものづくりの現場だとするならば、営業はプロデューサーのような役回りと言えるかもしれません。それでは担当領域ごとに、営業が日々どのようなニーズを受け止め、どんなアプローチをしているのか、もう少し具体的に掘り下げてみましょう。

環境対応製品ついて、まずは山本さんに伺います。

山本「国から『2030年までにバイオマスプラスチックを200万トン導入』という目標が2021年に示されたことで、プラスチックに関わる企業は現在、『環境対応』という業界共通の課題と向きあっています」

「脱色(着色しない)」「サーキュラーエコノミー」「CO2削減」といったブランドオーナーが抱える課題に対して、自社の優位性をいかに示せるかで各社がしのぎを削っている状況にあり、東京インキとしてもさらなる知見の集積に取り組んでいるところと山本さんは話します。

山本「例えば少し前、プラスチックのストローに替えて紙ストローを導入するケースが話題になりましたよね。そうした局面でバイオマス由来樹脂を提案し、環境対応の選択肢として改めてプラスチックを俎上に載せたり、リサイクル材料を使用する場合は、成型不具合や物性低下といったデメリットを踏まえて、添加剤による課題解決を探ってご提案する。そういった提案を心がけています。」

最近では、「余ったりロスが出たものの再利用ができないか」という相談が寄せられることもあると言います。

山本「 100年企業として培ってきた知見が強みということもあって、フワッとした段階でお困りごとを伺うことはよくあります。トライ&エラーを繰り返してその最適解を見つけていくのが醍醐味です」

次に容器・キャップを担当する藍さんはいかがでしょうか?

「私が担当しているのは、化粧品やシャンプーをはじめとする日用品全般の容器です。容器ならではの難しさは『パッケージをデザインするデザイナーさんが目指す色を実現する』という点にありますが、マスターバッチというのは基本的に色だけではなく『+機能』でオーダーメイドするもの。肌に触れたり、口に含んでも大丈夫な安全性の高い素材を選定したり、法律に照らしてその内容物ごとに求められる仕様があるものなので、設計はお客さんごと案件ごとに変わってきます」

そうした要件を満たしながら、コストや納期を両立させるのも営業の頑張り次第。「大切なのは、工場や技術と密にコミュニケーションを取ること」と藍さん。

「当社には小ロット専用ラインがあり、『小ロット・多品種・短納期』と小回りよく対応できる強みを持っています。マスターバッチは最低5kgからオーダーいただけることもあって、新規顧客と新しい開発テーマに取り組む機会もたくさんあります。そうした案件のプレゼンや、そこから発展した大きな仕事でさらなるチャレンジができるのがおもしろいところです」

最後に、吉澤さんに自動車関連について伺います。カーボンニュートラル実現のカギを握る自動車業界は、企業活動のあらゆる面で手段を限定することなく環境対応に取り組んでいます。素材を提供する中間材メーカーとして、製品を通じてどのような貢献ができるのでしょうか。

吉澤「インパネ、ピラー、バンパーといった自動車の内外装に用いられる樹脂というと、誰もがイメージする色は黒やグレーだと思いますが、例えば今、環境問題やSDGsを背景に車の所有が減り、カーシェアの利用が伸びています。そうなってくると同じ黒い内装でも、傷つき防止の処方ができないかというニーズが出てきます」

このように色そのものは変えずに『効果』や『機能』をプラスすることで間接的に環境対応に寄与するケースもあれば、プラスチック自体を減らす取り組みももちろん進めています。

吉澤「間伐材を原材料とするセルロース繊維を20〜40%程度混ぜ込んだ素材や、最近では『敢えてつぶつぶ』が入っているリサイクル材料を使った素材もラインナップしています」

従来、自動車用向け樹脂の着色剤には、一見してリサイクル品とは分からないレベルの黒やグレーを実現することが求められてきました。しかしそれではせっかくリサイクル品を採用しても環境に対する本気度が消費者に伝わりません。そこで登場したのが、見た目的にもリサイクル材料を使っていると分かる「意匠性」を付与した素材です。

吉澤「粒のサイズや色付けも独自に設計した製品で、インパネなどへの採用を視野に顧客に提案しています」

なるほど。「自動車のインテリアって昔は黒かったよね」と懐かしく振り返る未来がいずれやってくるかもしれませんね。
「営業」というと一般的にはセールスマンのイメージを思い浮かべますが、それぞれにお話を伺っていると、やはり東京インキの営業に不可欠なのは「流行をとらえる力」。それは、流行は追うのではなく、人々がどんな未来を願っているのかを流行の中に探る力なのではないでしょうか。

  1. 各種プラスチックに少量添加することで着色・機能を付与する材料
  2. プラスチックを複合材化した成形材料
  3. 色や機能をつけたい素材に、微粒子化した着色成分や機能材を均一に混ぜ合わせ、安定した性質を得る技術

着色剤マスターバッチ

マスターバッチで着色したボトルのサンプル

マスターバッチの色見本帳

傷付き防止機能を付与した自動車内装用樹脂(手前)と従来品との比較用サンプル

セルロース繊維(右)を混ぜ込んだ自動車内装用樹脂のサンプル(左)

リサイクル素材としての主張を狙って「敢えてつぶつぶ」した意匠性を持たせた新素材