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    Vol.19 国産プラスチックシンチレータ ─ 10年の軌跡とこれから

    放射線測定用材料『ルミネード®』

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研究者との交流から捉えた「国産」へのニーズ
センシング分野に不可欠な材料技術に結実

今回は、吉野原工場に拠点を置く開発部のTさん(写真中)、Sさん(写真左)、Aさん(写真右)にお話を伺いました。
 

医療・工業・農業など幅広い分野で利用されている放射線。身近なところでは空港の手荷物検査、意外なところでは農作物の品種改良など、放射線は実にさまざまな用途で利用されています。東京インキでは2016年、そうした放射線技術の研究現場からの要請に応えるべく、プラスチックシンチレータの開発に着手。2025年12月に一般販売を開始した放射線測定用材料『ルミネード® X』は、開発チームがこのとき蒔いた「種」から育った製品の一つです。
シンチレータとは、人間の五感では検知できない放射線に反応して光を発する材料。当初は研究用途という小規模なニーズしかなく、「はたしてビジネスと言えるのか」と悩んだこともあったそう。「種」はいかにして芽吹き、そして開花したのでしょうか。

「シンチレータ」という言葉を今回初めて知ったのですが、理化学の世界では一般的な言葉なのでしょうか?

Sさん

そんなことありません。今でこそようやく社内にも浸透しつつありますが、開発を始めた当初は「何をやってるんだ?」と不審がられていたと思います(笑)

青く発光するんですね?この光で放射線を測定するんですか?

Sさん

そうです。シンチレータは検査機のセンサー部分に使われます。測定したい放射線の種類によって金属を含有させるかどうかなど、設計は異なるのですが、放射線に反応して光を発するという性質を利用し、検出や測定ができるわけです。

開発はどのようなきっかけでスタートしたのでしょう?

Sさん

大学の研究室とのお付き合いを通じて、「国産プラスチックシンチレータがあったら使いたい」というニーズがあることを私が知ったのが2016年。すぐに化成品技術部と共同で最初の試作を進めました。

それまで「国産」は無かった?

Sさん

プラスチックシンチレータ市場は海外メーカーの独占市場で、輸入プラスチックシンチレータ以外の選択肢は当時ありませんでした。でも輸入品は欲しい時に必要な量がいつでも手に入るわけではないですし、求められる仕様も研究テーマによって違ってくるため、研究者のリクエストにこまめに対応してくれる国内メーカーがあったら助かるということでした。実験のペースやタイミングがシンチレータの入荷状況に左右されてしまうのにも困っているようでしたね。

ビジネスになりそうな予感が?

Sさん

いやぁ、ビジネスまでは全然…

Tさん

最初の数年はビジネスの気配はほとんどありませんでした(笑)

Sさん

でもTさんも別の研究者からやはり「国産」に期待する声をキャッチしていたので、同じような課題を抱えている研究現場がもっとあることは想像できました。「自分たちの技術だったらできる」という感触もありましたし、実際に初回試作で求められた要求をほぼクリアできたので、技術シーズとしての価値には確信がありました。

しかし、2016年の開発着手以降、直近の『ルミネード® 3DPフィラメント』や『ルミネード® X』の開発・販売に至るまで、およそ10年。どんな10年だったのでしょうか?

Sさん

一定のニーズがあることはわかっていましたが、放射線・計測分野は当社として初めて開拓していく市場。東京インキのブランド力がまったく通用しません。研究者にプレゼンしても「何屋さんなの?」なんて言われたりして…。興味は持ってもらえるのですが、「なるほど」で終わってしまう経験も何度となくしています。国内に競合がいない分、「国産に対する信用がゼロ」という点も苦労しましたね。

営業活動も開発チームがしているんですか?

Sさん

『ルミネード®』のプロモーション活動は学会での企業展示などが中心。研究者や専門家に向けた説明になるので、私たちが自らフロントに立ってやっています。昨年Aさんがメンバーに加わってからはこの3人で。

そうしたプロモーションの成果はいかがですか?

Sさん

学会は専門家しか来ませんから具体的な話にスパッと入っていけるんです。そうやって研究者や専門家と直接つながることで、それぞれのニーズに対応した実験的・挑戦的な試作品開発を積み重ねてきました。それによって得られた評価が認知度にもつながっているのではないかと思います。

Tさん

私は、Sさんよりもどちらかというとシーズ寄りの立場で開発を進めてきたので、Sさんがニーズ起点で試作品を作るのに対して、このシーズを社会実装するためのニーズを探り当てようというスタンスで研究者や専門家とコンタクトをとるアプローチをしてきました。

Sさん

両方からアプローチしたのがよかったんだと思います。だから生き残れたんじゃないかな。

「生き残れた」というのは…?

Sさん

ここまで来る過程で「開発を続けられるだろうか」というような局面も実はあったんです。 でも、小さくてもニーズとして継続的な販売実績があったこと。その一方でTさんが高エネルギー加速器研究機構(KEK)の先生に師事して、技術シーズとしてのブラッシュアップを図っていったこと。それぞれの努力があったからこそ、シーズを「種」のまま終わらせないプロジェクトとして生き残れたのかなと。

Tさん

確かに不安な時期もありましたが、少しずつ研究用途以外にも販路が広がっていきました。最近も装置メーカーなどから具体的な相談や引き合いを頂いています。

昨年2025年は『ルミネード® 3DPフィラメント』や『ルミネード® X』の発売など動きの多い年だったようですね。Aさんが加わってチーム力も強化されたとのことですが、3人体制になって変わったことはありますか?

Sさん

いやもう、試作のスピードが飛躍的に向上しました。例えば研究者から「こういうのを作って」と言われても私には試作ができません。私、インキ事業の出身ですから。だからこれまでは化成品技術部に依頼して作ってもらっていたのですが、試作品をチーム内で作れるようになったのは画期的です。

Aさんはその化成品技術部に在籍していたんですよね?

Aさん

そうです。開発部でプラスチックシンチレータプロジェクトの社内公募があり、応募しました。

Sさん

知らなかったのですが、私たちが依頼した試作を、実際に手を動かして作っていたのが実はAさんだったんです。公募の選抜結果から事情を聴いて実態が分かりましたよ(笑)

シンチレータについて、Aさんはもともと興味や知識があったのですか?

Aさん

いえ、知識に関しては全然。『ルミネード®』のペレットを自分が作っていたのでプラスチックシンチレータの存在自体はもちろん知っていましたが、具体的にどこでどの様に使われているのかまでは知りませんでした。

では化成品技術部時代は、どこの部署の誰が試作を依頼しているのかはAさんも知らずに?

Aさん

はい、生産対応の依頼を受けるだけで直接のやり取りはなく、お二人とは当時面識がありませんでした。開発部に来てお二人からいろいろ話を聞いて、「なるほどそういうことだったのか」と今になって腑に落ちたりしています(笑)

そんな伏線回収みたいなことが(笑)

Sさん

学会での企業展示で先生方が「ちょっと使ってみようかな」となったとき、この体制ならサンプルワークにうまく繋げていくことができます。東京インキとしての強みにもなってくると思っています。

さらなる拡販を見込んでの3人体制ということですね。今後のビジョンについても伺えますか?

Sさん

「国産」には良い反応がもらえるのですが、いざブランドスイッチとなるとやはりキーになるのは認知度です。海外メーカーと競合しても当たり負けしないブランド力を構築していく必要があるでしょうね。またシンチレータには検査機の交換部品としての需要があるので、そこに食い込んでいけるような商品開発に並行して取り組んでいるところです。

BtoBでの競争力をいかに上げていくか?

Tさん

そうですね。「こういうものを製品化できないか」と企業から具体的にオファーをもらえて初めて社会実装と言えると私は考えていますので、そういうブランドとして育てていけたらと思っています。

Sさん

当社のECサイトでの販売も、研究室ニーズに対応した小口の販売チャネルというだけでなく、少しでも露出を増やそうという狙いがあるんです。「東京インキ、こんな製品も作っているのか」と一人でも多くの方に知ってもらえるとうれしいです。ぜひ覗いてみてください。

この記事もたくさんの方に届くといいですね。最後になりますが、改めて『ルミネード®』をアピールしていただけますか?

Sさん

事業と呼ぶにはまだこれからですが、宇宙線や素粒子、X線イメージングといった先端科学の世界で「使えるかもしれない」と言っていただける場面も出てきました。派手さはありませんが、こうした積み重ねを大切にしながら、東京インキの新しい可能性として育てていきたいと思っています。

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